それは遠くから見ればもう山にしか見えないが、近づいてみると見るととてつもなく巨大な一つの岩の塊であることがわかってくる。
岩山の下のほうは森林を形成しているが、急激に岩肌が立ち上がる。水がしたたっているのか、頂上から黒光りする筋が幾筋も走っている。
岩山の頂上付近はなだらかになりまた森林が形成されている。ちょうど台形のような形だ。
この岩の頂上の標高は約1000m、下の方は100mくらいだからこの岩は高さ900mもあることになる。
近づけばその大きさに圧倒されてしまう。その岩をよーく見ると、ナント!
頂上付近の崖っぷちに、米粒のように小さくブルーのテントが見えるのだ。
この岩は登れるのである!いつか登ってやろうと思っていたのだが、今回やっとそのチャンスがやってきたのだ。
ブキッ・クラムを登る登山道は一本しかない。西側の比較的なだらかな面から取り付いていくことになる。
それでは頂上に向けて出発〜!!
入り口からすぐはセメントで階段状に固めてある。5分ほど登ると滝が現れる。
まさか魚はいないだろうな、と思いつつ水面を覗いてみるがさすがにいないようだった。
その岩肌にはたくさんの名前や日付などが彫ってある。
日曜日になるとシンタンの若者達がピクニックに遊びにくるらしい。
そこからは一気に急な登りになる。うへーいきなりきつい登りだ。
まだ木々が生えてはいるが蒸し暑く息苦しい。汗だらだら。
木々はまばらになり少し開けてきた。
ますます暑い。
おっとハシゴが現われた!
高所恐怖症にはちと辛い。
なんとかクリアーし、さらに登る。
ここまで下から一時間ほど、まだまだ頂上は彼方。
おっとハシゴ第2段だ!
うひゃーハシゴが壊れてる、怖〜!
ハシゴ無事クリアー、と思ったらありゃ道が無い??
ま、まさかこの岩壁を横切るんじゃあないだろうな?
イヤ、あり得ない、落ちたらマッさかさまだ。
しかし他に進めそうな道は無い・・・ハハ。
迷っているところに下からダヤクの青年が登場した。
すごい大きな荷物を背負っている。これ背負ってきたのかあ・・・。
「どこまでいくの?」
「上だよ」
「どこからいくの?」
「ここだよ」
クーッ、やっぱそうなのかーっ!
靴を脱いで壁にへばりつきながら恐る恐る岩を横切る。
ほんの15mほどだが、イヤな汗が吹き出る。
なんとか無事に渡りきり一休み。
ところで彼は岩壁でツバメの巣を取っているそうだ。
あのブルーのテントは彼らのキャンプ地らしい。
またここからさらに登る。
この辺からなんとなく植生が変わってきたようだ。
頂上まではもう少し!だがイヤなものが見えてきた。
ハシゴ第3段だ!しかもこれは今までのものとは違う!
垂直に伸びていて半端な高さじゃないぞ。
しかしここを登らなくては頂上には行けないのだ。
一段一段、慎重に確実にハシゴを登っていく。
これはさすがに周りの景色を楽しむどこではない。
フゥー、なんとかここも無事に登りきったらしい・・・。
ここでやっと頂上の台の上にのったことになる。
こりゃ魚採りよりツライな。
お、なんか霧がかってきたぞ。
ここから先は道という道はない。
倒した倒木の上を延々と歩いていく。
ダヤクの青年はあれだけの荷物を背負っているのに速い、速い。
1時間ほど歩いて、おっと!キャンプか!?
フー、ツバメの巣を取る職人たちのベースキャンプにやっと到着〜!
突然の来訪者に一同ア然。
無線で下界に報告、「おい、日本人が来たぞー!」
インドネシア人でも滅多に上まで来ないそうだ。
彼らは岩の裂け目に作られるツバメの巣を採取している。
岩には洞窟があるらしく、ここから300mロープで降りるそうだ。
命がけの仕事である。彼らがこの岩の頂上を案内してくれた。
うおーデカイ!N・ラフレシアナだ!2連発!
林の中、他の草の陰で発見。
つぼをひっくり返してみるとデロデロっとした液が出てきた。
アンプラリアも発見。
「この白い実はこすると泡が出て石鹸になるんだよ」
林を抜けるとそこはもう崖っぷちだ。
靴では滑るので裸足になって這うように歩く。
彼らは岩の崖っぷちをトコトコ歩く、お、恐ろしい・・・。
滑ったら900m下に落ちるのだぞ!
おっと今度はN・アルボマルギナータだ。
綺麗なグリーンだ。
長い茎につぼがズラリ。
二人の後ろの崖っぷちに座っている人が見えるだろうか。
そんなとこに座っちゃ危ないっつーの!
這いつくばって写真を撮る。
彼らの一人が僕の体を押さえていてくれた。
こちらは赤茶色のN・レインワードチアナだ!
うおーっ!あそこに生えてるのはクリピアータじゃないか!?
ボルネオでもこのブキット・クラムにしか生えていないのだ。
しかし近寄れない。危険すぎる。くっ〜!
チックショ〜、望遠持ってくればよかったー・・・。
とても怖いが珍しい植物を見れてとっても興奮!
でももうそろそろ戻らねば・・・。
彼らは4ヶ月間この山の上で過ごし、交代するという。
「また来年遊びに来い。その時はこのキャンプに泊まればいい。ただし夜は寒いぞ。」
彼らはとてもたくましく、そして優しかった。
僕はキャンプを去った。
若い人が一番上のハシゴまで見送ってくれた。
登り道あれほど怖かった岩壁の横切りも、帰り道はそれほど怖いとは思わなかった。
僕もほんの少し彼らのたくましさを分けてもらった気がした。
[シンタンから上流方面へ]
[シンタンから下流方面へ]
[シンタンからナンガ・ピノ方面へ]
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