ベタ・チャンノイデスについての追加レポート

このHPに掲載した「ベタ チャンノイディスについて」から早くも3年が過ぎました。
私的には色々なことがあってバタバタとした3年間でしたが、今年ようやくタンジュンレデブ地域に戻れましたので、訂正と追加をしたいと思います。

私がタンジュンレデブ地域に着目した理由
ご存知のようにアルビマルギナータ・グループは、現在アルビマルギナータとチャンノイディスの2種類のみで、両種の分布域の間は空白地帯となっています。
ではこの空白地帯に同じグループに属する別の種類が居るのではないか?と考えたからです。
そして地形的に生息可能なのがタンジュンレデブ地域であり、位置的にも両種の中間にあたるので、 どちらとも言えない中間的な種類、あるいは全く異なる種類が生息する可能性があるからです。

セガ産の個体について
2002年11月の記述では、分布に関して−「セガと称して商業輸入されたセガ水系産」としましたが、 久保田氏と話し合ったところ、これは間違いであることが判明しました。
そしてこのロカリティ名とは同じく東カリマンタン州にあるサンガタを示すものだったのです。 また発送魚数は、わずか30匹程度だったとのことです。
なぜこのような結論に達したかと言うと、サンガタの表記はSengataで、これを現地のインドネシア人達はサンガタと発音します。 しかし久保田氏の採集スタッフはタイ人ですので、この地名を他者に言う場合は「セガッ」あるいは「サガッ」となるのです。 これはタイ人の発音癖として「n」の発音を省き、「t」を縮めて「〜ッ」となるからで、Sengataは「Segaッ」となります。
彼らの移動行程はサマリンダからボンタン以北の往復であり、同じくこの行程内で採集されたものです。 これは同便の魚種リストを拝見しても理解できました。
確かに道はサマリンダ→ボンタン→サンガタ→ベンガロン→ムアラワハウ→ムアララッセン→タンジュンレデブまであったのですが、 99年10月の時点ではベンガロン-ムアラワハウ間の道路状況は極めて悪いことに加え、 ムアラワハウ-タンジュンレデブ間は橋落と陥没で寸断されていました。 ですからそのままタンジュンレデブに至ることは道路状態、距離的、そして時間的に不可能だったのです。

サンガタについて
サマリンダから北へ約250Kmにある町で、サンガタ川に面しています。
この川はマハカム水系と異なるサンガタ水系で、直接マカサール海峡へ流れます。 ある程度の湿地帯があり、あの規模であれば湿地帯の細流部にアルビマルギナータ・タイプが生息していても不思議ではありません。
そしてセガ産は、明らかにチャンノイディスに近い体色なので、サンガタで採集されたものであれば位置的にも水系的にも理解できます。
私も97年から99年に、この場所で網を入れていますが採集できませんでした。 またボンタン-サンガタ間にある、ここぞ!と言わんばかりのブラックウォータの川で何度も網を入れましたが採集できず、05年は泥の川になっていました。
最も残念なことは00年以降、サンガタ周辺での石炭採掘が拡大し、大量の流出土がこの湿地に入り込んでいます。 私は05年6月にもこの場所を訪れていますが、泥水の荒廃した湿地に成り果てていました。 あのような状況では生息地は既に消滅したと考えるのが妥当でしょう。
つまりアルビマルギナータ・タイプが必要とするバックグランド(後方湿地=2002年記述参考)の環境が失われてしまったのです。 そして今後も採掘範囲は更に拡大しますので改善の余地はありません。ですからB.チャンノイディス・セガ産とは最初で最後の便だったのです。
また水系の違いと閉鎖環境、そして体色の違いから新種記載された可能性は高ったので、記録すら残らないのは残念でなりません。 当時入荷したセガ産を維持されている方が居られましたら是非連絡願います。

B.アルビマルギナータ・タイプの記録について
分布に関して−「タンジュンレデブからマカリハット岬の方向に進みタリサヤンと言う村に行き着くまでに、 アルビマルギナータのレコードがある」と記述しました。
私は05年7月に上記サンガタを抜けて、この地域で再び採集を試みたのですが・・・その姿を見ることはできませんでした!
今回は前回に比べてとても良いコンディションでした。あの97年は忌まわしい森林火災による“凄まじい煙”の中、視界は最悪で頭痛もひどいものでした。 そして干ばつの為に多くの川が渇水で、自ずとトライ出来る川が限られていたのです。 今思えばと言うより、既にあの時点で無謀な行動でした。
今回は天候にも恵まれ、水位はどこも“高すぎず低すぎず”採集にはベストコンディションだったと言えます。 基本的に地形との関係で生息エリア(居るのであれば)は自ずと限られますので、それほど日数を必要とするものでもありません。 採集を試みた場所は、湧き水の豊富な低湿地部の細流や、それ周辺の溜まり部など、アルビマルギナータ・タイプが最も好む環境から、 ウニマクラータの生息場所まで網を入れたのですが・・・。
この地域では海岸付近までウニマクラータが生息していますので、汽水魚とウニマクラータが同時に網に入る信じ難い経験もできます。 「ウニマクラータとボラは一緒に居るんやでぇ」と言ったところで、真に受けるアクアリストなど居ません。 これを単純に垂直分布で考えた場合、ウニマクラータの後方にニッチェを持つアルビマルギナータは生息しないことになります。
更にアルビマルギナータ・タイプが必要とするバックグランドが小規模で、果たしてこれが有効かどうかも疑問です。 そしてカルシウム硬度が高く水質的にも難しいのではないか?などなど難しい要素が多いのです。 しかし記録はあるし、アルビマルギナータのように特徴的な種類が他種と混同されたとは思えません。 部分的に川を観ればアルビマルギナータが生息するような場所は幾つもあるのです。
自分では「ホントに居るなら採れたはず」と思っているのですが、それでも可能性を捨てる訳にはいきません。 いつかまた挑戦します!

2005年9月5日 出射隆成

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