さて今回の採集は中央カリマンタンのサンピットへ向かう予定だった。
サンピットはスファエリクティス・アクロストマが生息するメンタヤ川に面している。
そこを中心にお馴染みパンカランブンやパランカラヤに行こうと思っていた。
西カリマンタンのポンティアナックからは、飛行機が各町へ、舟がパンカランブンの港クマイまで出ている。
しかし予想外だった。飛行機は半月先まで満席、舟も半月先にならないと出港しないという。
ちっ、思うようにいかないのがカリマンタンという所。
それならちょうどいい、予定を変更してアンジュンガンに行ってやれ。
アンジュンガンといえばそう!リコリス・アンジュンガンエンシスだ。
しかしねらいがアンジュンガンエンシスじゃないことは皆さんお分かりだと思う。
そう、小型でちょっと風変わりな色彩が非常に魅力的な、
リコリス・オルナティカウダがこのあたりに生息しているはずなのだ。
この魅力的なリコリスはすでにプライベートルートでわずかながら日本に入ってきているらしい。
アンジュンガンエンシスと生息地が重なっているというウワサが流れているが、その事について聞かれる事がある。
でも僕はアンジュンガンを「通り過ぎた事」しかないのでなんとも言えなかった。
僕としてもその辺の所に興味があったし、オルナティカウダを見てみたいという事もあって、行ってみることにした。
僕はまずポンティアナックからスンガイピニュへ向かった。
スンガイピニュというのは川の名前だが、そのまま地名になっている。
街では中華系の人たちが30mはあろうかという獅子を躍らせ、旧正月を祝っていた。
夜はこれに灯かりが燈る、バグース!
この辺りはジャングルからブラックウォーターが流れ出す低湿地帯で、とはいっても
ジャングルといえるような森はほとんど無い。米を作る水田が広がっている。
僕はこのスンガイピニュから小さな乗合バスで乗ったり降りたりを繰り返しながら、
適当な場所を探して回った。この辺りの細流にはB・エディサエやB・ルティランスが生息していた。
やがて僕はピニュ川の支流、クパヤンという川で魚採集をしている現地の青年達に会う事ができた。彼らは大きな網を五、六人で持ち、そこに魚を追い込んでいた。
「何採ってんの?」「ロンボ」青年の一人が答えた。ロンボ?現地名だろうか。
袋に入ったそのロンボを見せてもらうと、おおっ!ロンボオケラトゥスが山ほど入ってる!
なんと彼らは、プンティウス・ロンボオケラトゥスの学名を知っていたのだ。
それどころか彼らはラスボラ・アギリスやベタ・ルティランス、
しまいにはパロスフロメヌスの学名まで知っていたのである。う〜ん、あなどれない。
「パロスフロメヌスならここにたくさんいるよ。」
なんと!採集してみると彼らのいうとおりこの川にはたくさんのアンジュンガンエンシスが生息していた。
その中に小さくて妙に体色が赤っぽいリコリスが混じっている!それがオルナティカウダだったのであった。
いわゆるブラックウォーターですね〜
もちろんオルナティが採れた事はとても嬉しかったけど、僕は魚採集をしていた彼らが非常に印象的で心に残った。
いい仕事してるなぁと思った。仲間数人と網を持ち、黒くどこまでも澄んだ水に浸りながら、
網に魚が入るたびに歓声をあげ、大騒ぎして喜んでいる。
中には十歳にもならないような少年達も一緒だった。これがいくらで売れるのかは聞かなかったが、
おそらくシッパーへ売りにいくんだろう。いいなあ、こんな風に楽しく仕事ができたら・・・。
しかしだ、同じ所に生息してるのになぜ日本にはアンジュンガンエンシスしか入荷しないのか?
彼らの袋の中のリコリスを見てみると、アンジュンガンエンシスとオルナティカウダはごちゃ混ぜになって入っていた。
まあ、流通経路の事など僕は全く知らないし興味もないが、
とにかくアンジュンガンエンシスとオルナティカウダは同じ場所に生息しているということは確認できた。
黒いひれに尾びれの赤いスポットがたまらん〜!
アナバンテッドでは他にチョコグラ、クロコダイルフィッシュ、B・ルティランスそしてB・フォーシィも生息していた。
リコリスは川岸から枝や草、水草などが水面を覆っているような所に多く生息し、暗めの環境を好むようだ。
この川の水質はPH4、GH、KHが共に1以下、水温26度〜28度、非常に濃いブラックウォーターだ。
採集の際には小さな体を傷つけないようにできるだけの注意を払った。
ちなみにスンガイピニュはカプアスの支流ではなく、そのまま海に流れ出ているが、
カプアス水系の下流域にも生息している可能性はある。
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