広西チワン族自治区採集記U

お次はまたバスで移動、新たに見つかったというクリプトコリネ sp."Guangxi"(近い発音はグアンシ)が自生するという別の川へ。
そのsp種は細流に生えていて、そのすぐ下の本流側には通常のクリパチュラも生えているという。
う〜ん、交雑はしないのだろうか・・・?それを分ける要因とは・・・?

さっそくクリスパチュラが生えているという本流の川を見てみる。 川幅は〜20mほどで流れはかなりある。 素晴らしく美しい川で多種類の有茎水草が種類ごとにあちこちに群落を作っている。
クリスパチュラも川の流れの中にところどころ群落を作って生えていた。 この川のクリスパチュラは細葉のタイプで葉幅は1cm前後くらい、色は深い緑色。 基本的にスリスパチュラは流水を好むクリプトコリネといえるかもしれない。
※このサイトでは便宜上、この川のクリスパチュラをcrispatula "Guangxi2"と記述することがあります。 また新たに見つかった白い花のクリプトコリネをsp."Guangxi"としています。

クリスパチュラの生える本流側の川

水草天国!すいません偏光フィルタ忘れた・・・^^;

細長いタイプの葉のクリスパチュラ

クリスパチュラの花

その本流へ注ぎ込む小さな細流がsp種の自生地であるという。
川幅は約1〜2mほど。本流の環境とは一転、うす暗く水の流れは非常に緩やか、落ち葉などが川底に積っている。
驚いたことに、その細流へ入るとすぐにそのクリプトコリネはあらわれた。本流のクリスパチュラまではわずか20mも無いかもしれない。 僕の友人が「ベタっぽい場所でしょう」と言ったとおり、まさしくカリマンタンのベタの生息地の環境にそっくりである。

このクリプトコリネの特徴は凹凸のないライトグリーンの葉、葉幅は2〜3cmほど。 葉裏はかなり赤味がかかる株も多い。 花はらせん状で白く形に特徴がある。純白というよりは色が抜けていると言った方がいいかもしれない。
流れが緩やかなので河底には落ち葉などが積もっているがその下は石・砂利であり、このクリプトコリネはその石の隙間にがっちり根を張っている。

ゆったりとした流れの中に・・・おおっ素晴らしい!

川床は石と砂利です。PH6.0,GH/KH0-1,水温20.2度

本流のクリスパチュラは採集してみると、どちらかというと実生よりランナーを伸ばして一塊りにゴチョっと群落を作っている様子であったが、こちらのsp種は採集した限り、ランナーを出していた株は一つも無く独立していて、フルーツをつけていることが多く実生で生えているようだった。
このらせん状の花を見るとクリスパチュラと関係性があることは十分に考えられる。
本流のクリスパチュラは花が咲いても水中に没していることも多かったが、sp種の花はほぼ必ず水上に立ち上がる。
花を採取して根元を切開してみるとびっくりするほど多数の小バエが出てくる。 この花はそれらの小昆虫類が入りやすい形状になっているとさえ思える。そして受粉しフルーツをつけ実生で殖えていく。
両種はこれほど近い場所にありながら環境は明確に線引きされており、その環境にそれぞれが適応し繁殖戦略を異にしている。
「交雑しない」のではなく「分化していっている」のかもしれない。
これはもちろん推測の域を出ず、DNAなどの詳細な鑑定が明らかになるまでは分からない。

sp."Guangxi"の美しい花

クリスパチュラはパートTでのレポートでも紹介したが、同一区間でさえ葉・花の容姿はかなり違う。それは同一区間内で水中か、水上か・・・根付いた場所の違いによってである。
また今回のレポートのように川が変わればバリエーションが変わり、同じ水中株でも葉の形はかなり違うし花も微妙に違う。
しかし、クリスパチュラの持つ本質、「好流水性、開けた明るい場所を好む性質」は変わらない。 淡水性の生物にとって魚類でも植物でも、水の流速と日照度は生息場所を分ける大きな要因の一つである。

こういった点でsp."Guangxi"は大きく異なる。うす暗い環境を好み、非常に緩やかな水の流れを好む。 逆に言うとクリスパチュラはこちらには一本も生えていない。
葉・花の形質が違うこともさることながら、植物としての性質が異なっていると感じる。 そしてその環境にあった繁殖戦略をとっている。ある環境に生態が特殊化しているか、というのは大きなポイントだろう。
外から見た形質、内から見たDNA、そして周りの環境との関わり(生態)、これらを総合的にみて種というものは判断されるべきというのが僕の持論だ。

本流側のクリスパチュラ(crispatula"Guangxi1")の花

sp."Guangxi"の花

本流側のクリスパチュラ(crispatula"Guangxi1")のケトル内部

sp."Guangxi"のケトル内部

左:sp."Guangxi"、右:crispatula"Guangxi1"ともに水中株(友人撮影)

まあ、どういう種であるにしても個人的にはこの花の姿は美しいと思う。
どちらかと言うと水中育成が向いているが、ソイル単用の水上育成での開花実績もすでにある。 画像を拝見させてもらったが、現地での花と同じく良く特徴の出た花であった。

時期的なものなのか少なかった現地での水上株

この場所でもうひとつ面白い住みわけの例をあげよう。
Macropodus opercularis(パラダイスフィッシュ)とMacropodus hongkongensis(ブラックパラダイスに近い)である。
opercularis種がクリスパチュラ側、 hongkongensis種がsp."Guangxi"側(さらに上流部だが)である。

本流側に生息するMacropodus opercularis

細流側の上流部に生息するMacropodus hongkongensis

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