ブセファランドラ採集記・カユラピス編

以前訪れたのはいつだっただろうか・・・
コンピューターに突っ込んでいる撮影画像を調べてみると2006年であった。
この時、初めて西カリマンタンのカユラピス(kayu lapis)を訪れたのだ。
同じ時にスカマラでCryptocoryne edithiaeも見つけ出した。
今考えればけっこう熱い年だったんだなあ。

もう3年以上経ったわけか・・・
この時、小型のBucephalandra sp.を見つけた。しかし少量しか見つけることができなかった。
その後リクエストが多かったにもかかわらず、今まで一度も行かなかったのにはちゃんとした理由がある。そして友人に採ってきてくれと頼んでも「あーだこーだ」と言って応じてくれないのにも理由がある。
その理由とは・・・・・・え〜と、めんどくさいから。 いやいや冗談じゃなく、ほんとにめんどくさいんですよ。 しかし今回は意を決して自分で出かけることにした。
カユラピスへはメインのシンタン通りから横道に入り、約60kmほどオフロードをバイクで走る。たったの60kmなんて言わないでくださいね、これがとんでもない「いばらの道」なのである。

カユラピスへの道、とにかく道が悪く急坂が多い。入口からしばらくはオフロードではあるが、まあまだ道はいい。 でも1時間くらい走ると「あ〜やっぱりなぁ」という心情になり、2時間走って「もうここまで来たら行くしかないだろう」と決心する。

急な坂道、でもまだまだ中盤、写真をとる余裕があります。

中へ入っていくほど道は悪くなり、さらにバイクしか入れない横道に入り、最後の一時間はバイクに「座って運転することなど出来ない」ほどの岩道である。 そう、バイクの教習で波状路ってありますよね。それをもっとハードにして急激なアップダウンがついた状態。
パッと見、え・・・嘘でしょ?って道。ハイ、そうです、バイクで上がるんです。
もちろん日本みたいにモトクロスバイクがあるならどうってことはないだろう。しかしインドネシアではモトクロスバイクはほとんど売っておらず、持っている人もまずいないので100ccくらいのカブみたいなバイクを借りて行くことになる。借りるときはもちろん、カユラピスへ行くなんて口に出してはいけない。
あ〜う、やっちまったい!・・・急な岩場の上り坂で後輪がスライドして溝にはまりバランスを崩してバイクをぶっ倒してしまい、買ったばかりの一眼のプロテクターレンズが割れてしまった。
いや、まあいいんです、そんなものは。こんな場所で骨折でもしようものなら・・・この道、車入ってこれないですから。幸いバイクもダメージはなかった。
計3時間ほど走って現場に着いた頃には、もう笑えない半死状態・・・。

川自体の幅はシンタン産の場所などよりも広く3〜5mほど。水量もある。 大きな石が点在し、日本の渓流を思わせるような景色である。
そのあちこちに点在する大石にブセファランドラがそこらじゅうに生えているかと言ったら、まったく生えていないのである。生えているのはその川のあるごく一部分のみなのである。

ブセファランドラsp."Kayulapis1","Kayulapis2"が自生する川です。手前の石についているのはコケです。

そのブセファランドラの自生地を観察してみると、湿り気の多い場所、たまに水しぶきがかかったりするような場所。上空はあまり開けておらず薄暗い場所。
それにしても局地的だなあ・・・これは"Sekadau1"でも同じである。 花は現地でも咲いている。種が流れれば下流側でも生えている場所があっても良さそうなのだが・・・。 要求する環境が自然下ではシビアなのだろう。
その川のある一部分のエリアに、5cm四方くらいの小さな群落を点在させて自生している。

極小ブセファランドラ「カユラピス1」です。湿った場所に生えています。小さいですが花も見られます。

2006年当時の写真です。小さな滝のような場所の小群落を撮影中。

悪路をこれだけ走ってきても採集できるブセファランドラはわずか15cm四方ほど。
もちろんもう少したくさん採ることも可能ではある。しかし僕の採集スタンスとしては「一年後にはもとの群落の大きさに回復できる」程度の採集を徹底している。 そこで小さな群落をゴソッと丸ごと採るのではなく、それぞれの群落から少しずつ採集する。
こういう局地的に岩場につくような植物は、根付いた部分を残せばそこを足掛かりに増殖出来るが、ゴソッと全部取ってしまうと新たにその場所に種から発芽し根付くのは相当低い確率であると考えられる。 だからこそ世界最古の熱帯ジャングルにもかかわらず、岩場の上がブセファランドラで埋め尽くされることがないのである。

これも2006年当時の写真です。大型のブセファランドラ「カユラピス2」です。PS:現在Aridarumである事が確認されています。

30分間採集をしての帰り道、ここからが本当の勝負。カリマンタンで雨が降るのはたいてい午後からである。雨が降ったら最後、脱出は困難なのだ。
そして案の定というか・・・運悪く。
自分自身は雨には当たらなかったものの、スコールがあったらしく途中から道が泥沼と化していた・・・。 重たい赤茶色の泥がタイヤとフェンダーの間にぎっちり詰まってタイヤが全く回らなくなる。100m走っては泥をフェンダーから掻きだしてはまた少し走り・・・
しかもひたすらアップダウンの連続、バイクを押してドロドロの坂道を死にそうになりながら登っていく。

辺りはだんだんと薄暗くなり、そしてもうすっかり真っ暗闇に。心を無にして、ひたすら泥を掻きだし少しずつ進む。 しかし激しい坂道と泥のせいでチェーンから異音がっ〜〜!
これはマズイ・・・まだ携帯も圏外だ。何とかだましだまし、そして少しずつ進む。そんな中、向こうから二人乗りの一台のバイクが。
僕「今からカユラピス行くの?無理だよ〜。ジャラン・シンタンまで何キロ?」
「10kmくらい」
僕「10kmなら戻ったほうがいい」
僕のバイクの状態を見て無理と判断したのか、彼らは元の道を引き返した。 あと10kmか・・・道はだいぶ平坦になってきている、もう少しだ、頑張れ。

とうとうシンタン通りの灯りが見えてきた。
ふぅ〜、やっと着いたか・・・一息ついてから夜のアスファルトを走りだした。
あ〜アスファルトというのはなんという平和だろう。

これがカユラピスへの入口。地獄の旅への入口です。

町へ戻るとみんなが「いったいどこから来たのか?」という目で僕を見る。
無理もない、泥の塊が走っているとしか言いようがないんだから。笑
次の日、洗車をしバイク屋にバイクを持って行く途中にチェーンが切れた。危ういところだったな〜。
スリッピーな泥道でフルアクセルを繰り返したおかげで、スプロケット(ギア)もすり減って使い物にならないのでそれも交換。

なんだかんだとめんどくさい、そして精神的に消耗が激しい「カユラピスへの道」もこれにて終了。
僕の中でカリマンタン3大悪路の一つがこのカユラピスへの道である。
それにしてもそんな場所のブセをどうやって知ったのかって?・・・笑

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