マハカム川採集記2007T

2007年・・・ついに東カリマンタンへ向かう事にした。
今まで行かなかった事が不思議なくらいだが、とにかく西、中央だけでも調べる事は山ほどあったのだ。
そしてそれは今でも終わった訳ではないけれど、東カリマンタンの別のベタの種類を調べてみれば、 またちょっと新しい視点からベタというものを見ることが出来るかもしれない。

東カリマンタンにはウニマクラータグループ、チャンノイデスグループのベタが生息している。
西カリマンタン州には両グループが生息していないことを考えると、両州は距離的にかなり隔離されているように思われる方もいるかもしれない。
が、実際には東カリマンタンの大河マハカム川の源流と、西カリマンタンの大河カプアス川の源流は、一つ山を隔てて目と鼻の先まで接近している。両川の源流からトレッキングで山を越えることも出来るのである。 しかしその山はベタにとってはどうしても越えることが出来ない壁であったのだ。

「まいったな・・・もう乾季かと思ったんだけどな〜。」
僕はコタ・バングンという村の安宿のテラスからマハカム川を呆然と眺めていた。 この村はマハカム川の河口に位置する東カリマンタン最大の街サマリンダから約70km遡った場所にある。
村は完全に水没していて電気も途絶えていた。道路も家も市場もモスクも全て水没していた・・・今は5月後半、例年であればもうそろそろ乾季になる頃だろう。しかし今年は雨が上がらないどころか洪水である。

うっは!村中が洪水状態!こりゃ先が思いやられる・・・と一瞬思ったが

僕は地図をよーく見てみる。マハカム川は下流域に広大な湖沼地帯を抱えている。 その乾季と雨季の水位の差は6−7mにも達するという。
待てよ・・・湖沼地帯が下流域にあるという事は、つまり下流側が平坦で「水はけ」が悪いわけだ。 水位の上昇はまず下流域の湖沼地帯から始まるはずだ。しかもマハカム川は中流域から上流側は山間部へ入っていく。
もうこの辺りの地形の傾斜度だと雨が降っても強制的に排水せざるを得ない。
だからマハカム川というのは、上・中流域の水は一時的に水位が上がっても比較的早く下流側に流れるだろう。 その増水した水を下流域の湖沼地帯で受け止めるという地形になっている。
上流域に平坦で広大な湖沼地帯があるカプアス川とは水位の上昇の仕方に違いがあるのだ。
よーし!上を目指そう!可能性はあるぞ!

僕はマハカム側のほとりの船着場で、河口の街サマリンダから上流に向かってくる船を待った。 湖沼地帯を抜けたあたりに位置するムラッ(Melak)の村へ向かう事にしたのだ。
船はサマリンダを出発し、マハカム側の湖沼地帯を抜け、中流部(ムラッやロングイラムがある)を抜けやがて山間部へ入っていく。 この船の最終目的地は上流域の入り口のロングバグン(Long Bagun)だ。 そこから上流部は険しい渓流で、大型船は通行できない。そしてロングバグンへ行けるのも水位が高い時期だけだという。

船は3時頃やってきた。船は二階建てで一階部分は込み合っていたので、二階へ陣取る事にした。 船の中は薄暗く、みんなが寝られるように一人に一枚のマットがあてがわれる。
みんなやる事も無さげで、カップラーメンを食べたり、談笑したり、寝転んでいたりとマッタリ雰囲気。 僕は荷物からカメラだけ取り出して、薄暗く暑苦しい船内から甲板に出ることにした。

広〜い♪これがマハカム!奥には湿地が広がっている

うおー、なんという素晴らしい景色!船の中にいるなんてもったいない、みんなこの景色を見なくていいの!?
視界いっぱいに広がる水の中の緑の草原。大きな船に驚いて川面にたくさんの小魚が飛び跳ねる。 川岸に近い流木の上にはサギの一種だろうか、白い水鳥がたくさんとまっている。 船の進む波がとまっている流木に届きそうになると、鳥達は一斉に飛び立った。
真っ青な空に、木々の多様性を感じさせる川岸の様々な緑色、水面を飛ぶ真っ白な鳥の群れのコントラスト・・・決まり過ぎ。
もしかしたらとーっても珍しい白いカワゴンドウ(Orcaella brevirostris)だって 見られるかもしれない。
そしてマハカム川は壮大な夕日が見れるところらしい。だから僕はマハカム川に夕日が落ちるまで、カメラを構えてこの場所に居座るつもりだ。

マハカムの夕日・・・来てよかった。

ムラッの村には夜中の12頃、意外に早く到着したようだ。 船着場の土手から上がるとすぐ目の前にロスメンがあった。 夜も遅いし、暗くてよくわからないからここに泊っちゃおう。
船はしばらく停まった後、さらに上流のロングイラム、ロングバグンを目指して出発していった。
明日から行くぜー!

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