カプアス採集記2006T

カリマンタンに入るのは3年ぶりだー! 去年はポンティアナックには入ったのだが、そのままバスでマレーシアに抜けた。 そのあとカリマンタンへ戻る予定だったのだが、なんという事か・・・ビザを取ることが出来ず戻れなくなるという情けない事態に陥ってしまった。 クチンのインドネシア大使館が一週間も休みだったのだ。これでは帰国の日までに間に合わない!
仕方無くクアラルンプール経由でジャカルタへ戻るハメに。 しかも悪い事にその前にジャワとクチンでしこたま買い物をしたせいで飛行機代が無くなってしまっていた。 それで中国人の友人、ジョスリンちゃんに飛行機代まで借りてしまった・・・。
くそー、大使館がそんな事でいいのかーバカヤローッ!

僕はポンティアナックのスパディオ空港に降り立った。
おっー、カリマンタンの匂い!ん?違う!焦げ臭い!それにずいぶんモヤってんなー、なんだ?

煙るポンティアナック

僕はポンティアナックではカトリスティワホテルというホテルを常宿にしている。 カトリスティワとはインドネシア語で「赤道」を意味している。そうポンティアナックは赤道をちょこっと南に下った位置にある。
このカトリスティワホテルのすぐ裏手からシンタン行きのSJSというバスが出ている。 このバスは大型のエアコン完備の「超豪華長距離バス」で、一般庶民が利用するバスよりちょっと高いが、席はちゃんと決まっているし、リクライニングも出来る。 自分で押しがけしたり、ガス欠で足留め食らったりする事も無いハズなのだ。 これに乗りさえすればカリマンタンでファーストクラス気分が味わえるぞー。
よ〜し、これで行こう!

超豪華爆走冷蔵庫バスから降りてホッとした僕は友人の家へ向かった。 スカダウのバスターミナルはずいぶんと立派になり、周りには新しい商店やホテルも建設中で町全体が少しづつ大きくなってきているようだ。 もう10年近く前になるが、ここに何も無かった頃、移動遊園地がやってきて恐怖の手動制御式観覧車に乗ったことを思い出すなあ〜・・・。 その観覧車に一緒に乗った中学校に入ったばかりだった女の子はもう結婚もして子供までいる。時がたつのはホントに早いもんだ。

今回(2006年8月)の旅は完全に乾季の真っ最中の旅になった。
もう2ヶ月も雨が降っておらず、カプアス川の水位も大激減して現れた砂浜で子供達がサッカーをしている有様だ。 しかしここは熱帯雨林である。2ヶ月も全く雨が降っていないなんておかしいではないか? 乾いた森林のあちこちで火事が起き、カプアス川をつたって下っていった煙が河口の街ポンティアナックを覆いつくしていたのだ。

僕は友人を連れてスカダウの町からバイクで5分くらいの近くの小川に行ってみた。 ここは何度も訪れているが、Cryptocoryne sp."Sekadau"のことで確認しておきたい事があった。 この種はサラワク州に分布するCryptocoryne ferrugineaによく似た種類だが、花のテール部分はとても長く特徴的だ。
このクリプトには葉が明るいグリーンをしたものと、ダークなブラウンがかったものがあるようなのだが、僕は当初あまりそれを意識していなかった。 ちょっと日当たりの良い場所に生えていたりとか、少し水深の深い場所に生えてたからじゃないか、くらいにしか思っていなかったのだ。
クリプトではそのような事は珍しい事ではなく、ボコボコの丸葉系のクリプトが水中に入ると色も変わってツルンとした葉に変わる。 葉の茎も長くなり、同じ種類とは思えないほど外見が違っていたりするが、引っ込抜いてみるとランナーで繋がっていて一株だったりする。 葉っぱで種類は同定できないというのがクリプトコリネの半ば常識になっているのだ。
このクリプトコリネを手にされた方から「以前の物と葉の色が違うが違う物なのか?同じ産地で採集したのか?」との質問があり、 前に書いたような認識でいたので、個体差なのではないかと思いつつも気になっていて、再度確認してみることにしたのだ。

やはり細流の水は干上がっていた。ホントにわずかに水溜り程に水が残されている場所がある。 僕と友人は注意深くクリプトを見ていった。クリプトの葉はかなり土を被っていた。 土埃を払ってやると・・・うーん、なるほど・・・こりゃブラウンの葉っぱだ。

Cryptocoryne sp."Sekadau" ブラウン葉のタイプ

水は干上がっているが、クリプトの位置を見てみると特にそれ程深い場所に生えているわけではないなぁ。 クリプトは小群生を作って生えているが、それは全て同じブラウンの葉色であった。
株をいくつか掘り返してみると、ランナーで繋がっているものは少なく独立しているものが多かった。 種から育ったのだろうか?花も咲いていたが、花は全体的にエンジっぽい色をしている。

Cryptocoryne sp."Sekadau" ブラウン葉の開花株

干上がった細流を歩いて他の個体群を探してみる。 細流は曲がりくねっていて、水の無い細流はもうどちらが上流でどちらが下流だか良く分からなくなる。
おっ、今度はグリーンの葉っぱのsp."Sekadau"も発見!こちらも小群生を作っている。 やはりこの中にはブラウンの葉っぱは混じっていなくて全てグリーンの葉っぱであった。残念ながら花は見つからなかった。

Cryptocoryne sp."Sekadau" グリーン葉のタイプ

こちらは先ほどとは別のCryptocoryne sp."Sekadau" ブラウン葉の群生

日のあたり具合に関しては今見ただけではなんとも言えないが、もともと小さな川なので水深に関してほとんど差は感じられない。 しかしどの個体を見てもその中間のような葉っぱは見つからない。グリーンをしているかブラウンをしているかどっちかなのだ。
コルダータなどの場合、葉の形は様々でも大抵その中間型の葉も見つかるもんである。スカダウのこれも個体差なんだろうか? このスカダウ産のクリプトは人口育成下でランナーなどを伸ばしても、葉の色がグリーンからブラウンになったり、その逆になったりする事もないようなのである。
そしてさらに頂いた情報によるとこのグリーンのタイプとブラウンのタイプでは花の印象も違うということなのだ。 葉で種類を同定することが難しいクリプトコリネは、花が分類する上での重要な位置を占めるのでこれは貴重な情報だ。

Cryptocoryne sp."Sekadau" グリーン葉の開花株。人口育成下。

花も違うのか〜、これはどういうことなのだろう?個体差以上、別種未満? しかし、そもそも同じ小さな細流であれば虫が花粉を運び、遺伝的に分かれるには無理がありそうな気がするが。 それぞれの写真の小群生も距離にしてみればせいぜい10〜15mくらいしか離れていない。 元々同じものが別の種類に分かれていく場合、開花時期が変わってきたりして分かれていく事があるらしいが、 クリプトの場合はどうしても乾季の時期が開花の時期になるだろうし・・・。
これは今後も現地の開花株調査、手にされた愛好家の方々の開花株情報を積み重ねていく必要がありそうだ。

同じ細流に生えているCryptocoryne fuscaの群生

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