Bangka島採集記2005年U

次の日、同じタクシーをチャーターしバンカ島の西の端、ムントックへ向かう。
バンカ島西部の丘陵地帯の細流にはBetta sp."Bangka"が生息している。 この新種のベタは、高橋仙人氏によって発見され日本に紹介されてまだ間もないベタだが、 各ひれが伸長するフォルムといい、真っ青なエラブタといい素晴らしく魅力的なベタなのである。
一応、アカレンシスグループではという見解が有力のようだが、まだ研究の結果は出ないようだ。
面白いのは現地の人がこれをビンに入れて、プラカットのように闘わせたりするようで、 ワイルドのマウスブリーダーベタをこのように利用するというのはインドネシアでは他に例を見ない。
それゆえ、現地の人のこのベタに対する認知度は高く、闘争性を利用するということからも、 Betta chloropharynxBetta schalleriとの違いも認識しているようである。
このベタの生息地は細流の水源付近のかなり狭い範囲に限られていて、そのキャラクターもBetta sp."Sanggau"に共通するものを感じる。
このベタは少しばかり水質の変化に神経質なので、いくらか小さめのサイズをチョイスして採集した。

水換え用の水も確保して、パンカルピナンへ戻りつつ採集のポイントを探した。次なる採集目標はリコリスである。 コバでの採集が失敗に終わったので、是非ともデイスネリィの採集可能ポイントを探しておきたかった。
リコリスを探すにはいくつかのポイントがある。

1・水量が豊富なこと。これは川が大きいという意味あいではない。

2・川に入って水底をかき回してみると、濁りがスーっと流れていくくらいの緩やかな流れがあること。

3・水深が1m前後ほどの深い場所があること。

4・岸際に水草か抽水植物などがビッシリと密生していること。

このポイントの中で三つ当てはまれば大抵リコリスは生息している!(ずいぶん自信満々だなぁ〜)
で、これをもっと簡潔な言葉に言い換えるなら「マンディ場を見ろ!」ということになる。
1〜3番目のポイント、これは人間がマンディしたり、洗濯したりするのに良い条件である。
そして4番目のポイント、水際に水草などが繁茂している場所は、小さな藻エビや水生昆虫、微小生物が多数生息していて、リコリスの餌、そして隠れ家としても最適である。

この条件を目安にさっそく適当な場所を当たってみる。 目をつけたこの場所も典型的なマンディ場で、クリアウォーターである。
岸際の植物が水中にまで張り出して密生している場所を網で下から掬い上げてみる。 腰まで水に浸かっているから水深は1mくらいだろうか。
一網目、スカ。二網目、う〜んいないかな?三網目、ん!お〜っとキマした!ボディが赤く染まったリコリスのオスが網に入った。
あ、こりゃビンタンだな、と一瞬思ったのだが・・・アレ?尾ひれに柄が無いじゃん!
色はすぐに飛んでしまったが、背びれにも模様が無いようだし、ヒレは全体的にエンジ色っぽいリコリスのようだ。 そんなリコリスはバンカ島では聞いたことが無い。いや早合点は禁物、もしかしたらメス個体かもしれないし個体差かもしれない。
焦る気持ちを抑えつつも俄然ヤル気で何匹か採集してみると、個体差などでも無かったようで、みな同じような色彩をしている。 水槽に入れてじっくり色を出して確かめないと正確には分からないが、西カリマンタンのアンジュンガンエンシスといった感じだろうか。
未記載種な事は確かなようである。よしよし、これは皆さんに良い報告が出来るな〜。

Parosphromenus sp.(未記載種)の生息地

こういう新しい発見はとても嬉しいんだけど、こんな時に限ってGPSは友達に預けてあるし、 標本を作るためのホルマリンやアルコール、PHメータなどもジャカルタのホテルで盗まれてしまっていたのだ。というわけで、なんのデータも取らず次の採集ポイントに向け出発した。
次に向かったのは以前ビンタン種を採集したポイントである。この場所は以前にアクアウェーブでも紹介した場所で、やはりマンディ兼洗車場である。

Parosphromenus bintanの生息地

この場所は以前と同じ環境が残されていて、一安心である。
そしてやはり変わることなくビンタン種は美しくて、あのひれの輝きを見るとドキドキしてしまうのであった。

ホテルに戻り僕はリコリスの生息地についてあれこれ考えていた。
一つの疑問は、なぜリコリスはマンディ場にたくさん生息してるんだ?という事。
リコリスの好む環境とマンディ場が作られる場所がたまたま同じ場所だったんだろうか?う〜ん・・・・?
あ、もしかして!なるほど〜ちょっと見えてきましたよ〜!

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