光るメダカについて

本来、人のことを悪く言わない温厚な僕だが(嘘)、今回ばかりはちょっと厳しいことを言わせてもらおう。
友人と何気ない話をしていたところ、光るメダカの話題が出た。 友人は魚の事などには関心が無いが、ニュースでやっているのを見たのだという。
そのニュースとは、7月半ば、アクアリウムショップに遺伝子組み換えのメダカが販売されていると環境省に連絡が入り、自然環境への影響を危惧した同省がメダカの輸入元に対して輸入を自粛するよう要請したというものである。
一般の人も、メダカの地域変異のことなどはどうでもよいのかもしれないが、遺伝子組み換えというキーワードには反応するようである。
魚がそれを取り巻く自然環境とどのように関わっているか(人間の共生、破壊も含め)に興味を持っている僕にとっても、ある意味このメダカは強い関心事の一つだった。

「光るメダカ」とは、メダカの受精卵のDNAの一部を、発光クラゲから取り出した蛍光起因を持つDNAと組み換えて作り出す遺伝子組み換え生物 (Living Modified Organism : LMO )である。
LMOとは、カルタヘナ議定書第3条(g)で、「現代のバイオテクノロジーの利用によって得られた新たな遺伝物質の組み合わせ を持つあらゆる生きている生物」とされている。


環境省は今年(2003年)7月半ばにこのメダカが販売されているとの報告を受け、輸入を自粛するよう輸入元に要請したというが、 同省はもう去年の段階(2002年)でこのような生物が輸入されることを知っていたハズである。
なぜなら僕が去年の8月に、環境省自然環境局へこのようなメダカが輸入されることを報告したからである。
当時の自然環境局は「そのような話は初めて聞きました。もし資料があったら送ってください」ということで、メダカの記事が掲載されたアクア雑誌やネットで調べた資料を送ったのだ。
そして同時に自然界へ放される可能性が高いこのような生物が輸入されないよう関係業界に働きかけをして下さい、と申し入れた。
また僕は同年、ソフトバンク社月刊ビジネススタンダード11月号(発売:2002年9月24日)でこのメダカに関するコラムを執筆した。 その記事はこちら。

ビジネススタンダード SOFTBANK Publishing

遺伝子組み換え生物の氾濫

メダカの学校は眠らない
光るメダカ
子供のころ、メダカを採りに出かけた経験はあるだろうか?
以前は近所の小川や田んぼの脇のちょっとした用水路でも目にすることができた日本人にとって、 非常に馴染み深いメダカであるが、今やメダカは生息環境の悪化によって減少の一途をたどり、 ついには絶滅危惧種に指定されるまでになってしまった。
そんなメダカがさらに窮地に追い込まれている。遺伝子組み換えによる「光るメダカ」が輸入されるのである。
メダカの受精卵のDNAの一部を、異種生物から取り出した蛍光起因を持つDNAと組み換えて生まれるバイオ改変生物(LMO)なのだ。 しかも研究用などではない、一般向けアクアリウム用のペットとして今年中にも台湾から輸入されるそうである。
ブラックライトの下で幻想的に光るこのメダカは確かに今までにないアクアリウムの雰囲気を演出できる。
「新しい楽しみ方ができる、新しい客層を開拓できるという点で魅力的」(大手熱帯魚ショップ)と、アクア業界は期待しているのだ。

絶滅は時間の問題?

しかし、である。
現在、ペットとして輸入された外来種が自然界に放たれて在来の種を圧迫し、日本固有の生態系を脅かしている実例は多い。
「放されるのは間違いない。迷惑だよ、うちはメダカを遺伝的にみて4つに分けているから」(日本産淡水魚ショップ)
遺伝子組み換えメダカであっても在来のメダカと種類は同じ、自然界に放されれば問題なく交雑する。
メダカのように成長が早く繁殖のスパンも短い種類は、短期間で遺伝子汚染が進行してしまう可能性がある。遺伝子レベルで在来種が絶滅する恐れがあるのだ。
またこのようなバイオ改変生物を他の生物が食べることによって将来起こり得る影響も現段階では予測不能だ。色彩変異を固定して作ったものとは根本的に話が異なる。
何よりも怖いのはバイオ技術を使って作られるLMOがメダカである必要は全くないということだ。
光るネコだろうが2倍の大きさのカラスだろうが可能なのだ。そんな生物は恐怖以外の何者でもない。
アクア業界はLMOの様々な問題点を知りながらバイオ改変メダカを販売しようとしているのだろうか。
もしそうなら遺伝子改変生物であるという表示義務や、不妊処置を施したメダカしか販売しないなどの対策を考えているのだろうか。

日本のLMOに対する対策はどう行われているのだろうか? 
このメダカについて環境省に問い合わせた所「まだそのような報告は受けておらず、把握していない」という返答であった。
1992年5月に採択された生物多様性条約の第8条や19条にはLMOの利用、放出に際して多様性へのリスクを管理、制御するための条例がある。 現在、環境省自然環境局野生生物課においてLMOに対する法整備が進められているが、外来種問題も含め対応は遅れている。
ペットなど外来種の自然界への流出に関しては個人の管理やモラルに任されているのが現状だ。
しかしモラルが意味をなさない現代社会において法整備は急務だ。
そして水槽内など限定された環境での利用を前提としたLMOでも、それが国外から輸入されるものであろうが、国内で生産されるものであろうが、
自然界へ放される可能性が十分にあるというリスクを踏まえて法整備を進める必要があるだろう。

確かにバイオテクノロジーは様々な産業の分野で大きな可能性を秘めている 技術であるが、しかし使い方を間違えれば我々が想像もしない方向に突き進んでしまうかもしれない。

斉藤茂人

「斉藤茂人」とは僕が使っているペンネームである。

僕としては、遺伝子組み換えのメダカが輸入されることにも、国内で生産されることにも反対だ。 遺伝子組み換えをされたものは何でもかんでも反対と言うわけではなく、自然界へ放された場合の安全性が確認されていないからである。
水槽内から出さないという保証があればそれでもよいが、今の日本にそれが出来ないことは全ての人が分かっている。
輸入元は「メダカは不妊処置をしているから大・丈・夫」と環境省へ反論をしているようだが、その不妊処置が100%完全であるかは確認されていない。 もしそれが完全だと言うならその証拠と不妊処置の方法を公開するべきだろう。 また、その遺伝子組み換えメダカを食べた他の生物への安全性に関しては何のコメントもされていない。
改変品種(僕は今後この言葉を使うことにします)のヒメダカでさえ自然界へ放すのはけしからん!と思っている僕だから、クラゲの遺伝子の入った魚が自然界に放されるなど許せるはずがないのだ。
しかしネットでこの話題を検索してみると、僕と同じように危機感を持っている人が多いのだということを感じる。

今回の環境省の自粛要請は正しい判断だと思ってはいるが、この遺伝子組み換えメダカが輸入されることを前もって知っていたわけだから、 どうせ要請するのなら輸入される前に対応するべきであった。
そしてこの問題でもっとも情けないのは、アクア業界が環境省に「日本の自然環境に深刻な影響を与えかねないような事を安易に行わないように!」 と指導されているも同然の事である。
環境省だけでなくニュースを見た国民のほとんどがアクア業界に対して「勝手なマネをすんな!」と怒っているのである。
実際このことで将来、在来のメダカの存在が危機に陥ったら一体誰が責任を取るのだろうか?そういうことを考えないのだろうか?
またこのメダカを魅力ある魚として取り上げた各雑誌社の面目は丸潰れである。
これはホントに情けなく恥ずかしいことですよ。 本来なら真っ先にその危険性を指摘して、自然環境の保護を考えるべき業界でなければならないはず。 それが、商売のためなら何でもやるというプライドのかけらも無いような姿勢では、一般の人に「アクアリストは自然を破壊するバカどもである」と言われても何の反論も出来ない。
ヒステリックに遺伝子操作に反対する必要は全くないが、自然界に放された場合の危険性について楽観視するべきでもないのである。

私たちがこれからの時代、魚を輸入し飼育を楽しむためには生息地の環境保全こそがもっとも大切なことであり、アクアリストは自然の生態系を破壊していると言われる存在から、熱帯そして日本の環境を守るために力を尽くしている、と言われるような存在に変わっていかなければ、世の中から抹殺されるのみでしょう。

参考:
生物多様性条約(生物多様性センター)
http://www.biodic.go.jp/cbd.html
カルタヘナ議定書(生物多様性センター)
http://www.biodic.go.jp/cbd/biosafety/index.html
遺伝子改変生物が生物多様性へ及ぼす影響の防止のための処置について(中央環境審議会野生生物部会遺伝子組み換え生物小委員会)
http://www.env.go.jp/council/toshin/t131-h1405/t131-h1405-1.pdf

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