ここで席が狭いだの、ニワトリが臭いだの言いはじめたらとても楽しめない。
カリマンタンではバスは動くのか動かないのか、お前は乗るのか乗らないのか、それが大事だ。
中にはセルがついていないバスもある。そんな時は乗客自らがバスの押しがけ係となる。
以前カリマンタンに友人を連れて行ったことがある。
「これはアトラクションだね、バスじゃない」
正しい・・・。そうこれは乗れば色んなネタを提供してくれるアトラクションなのである。
このアトラクションは乗り込んだはいいが、そう簡単には発車しない。
まず席が埋まるまでピクリとも動かない。ようやく席が埋まり動き出すと、市内を回り荷物を集め始める。
荷物は来るもの拒まず、何でも載せる。米俵、大量のバナナ、サンダル、ブタにバイク、何でもござれ。
僕が日本から持っていく発泡箱なんて、日本の電車の中じゃ白い目で見られるが、ここでは見向きもされない。
さて荷物を積み終わったその頃には車内はサウナ状態になり、出発前に大汗をかかなくてはいけない。
何故それを先にやっておかないのか・・・。
さてようやく出発かと走り出し、汗もひいてきたと思ったその時バスは止まる。
な、なんと!今度はタイヤ交換を始めるではないか!みんな乗ったままである。
何故それを先にやっておかないのか・・・。
タイヤ交換を済ませ、かくしてやっとこのアトラクションは走り出すのだ。
5分後・・・ガソリンスタンドに入った・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ここまでくると、お釈迦様の生まれ変わりではないかといわれる僕の心にもメラメラとした何かが沸きあがってくるのを感じる。
しかしふと周りを見回すと、人々は依然お釈迦様のような面持ちである。中には光悦の微笑を浮かべているものもいる。
お〜〜〜っ!悟っている!僕などまだまだ修行が足りないようである。
名物のバナナチップが買える、スンガイピニュのターミナル
このアトラクションには一人の運転手と、コンダクターがいる。
コンダクターは道端のお客を見つけては運転手に合図を出して止まらせる。
お客の荷物を管理するのも仕事だ。彼のギャラはこの途中から乗ってきたお客にかかっている。
彼らの記憶力はすさまじく、途中から乗ってきた客がどこで乗りどこで降りるか全て把握している。
不思議なのだが、料金は乗る時でも降りる時でもない、コンダクターの気の向いた時に請求される。
陽気な奴、暗い奴、ヘビメタっぽい奴、女をくどく奴、色んなコンダクターがいて観察すると面白い。
一方、運転手は黙々と運転している事が多い。まあ当然だが。彼らは「走り」で自分を表現する。
やたらチンタラ走り一向に進まないバス、マンドールの峠でシューマッハばりに片輪浮かしながら大猛進するバス、様々である。
この峠を走る頃、車内に吊り下げられたゲロ袋に手を伸ばす人が増える。インドネシア人はバスに弱いのだ。
97年、ダヤク族vsマドゥーラ族の戦いで警戒にあたるインドネシア軍
カリマンタンのバスにはバス停はない。途中どこでも乗れてどこでも降りれる。
これは便利だが、コツもいる。バス停がない分バスは猛スピードで走り去ってしまうのだ。
もしレストランでコーラでも飲みながらバスを待つ場合、近づく車の音に注意していなくてはならない。
ボン(勘定)は先に払っておくべきである。
トラックか?バスか?乗用車か?
これを聞き分けたらあなたはもう筋金入りのカリマンタナー(?)である。
もしバスであればバスの前に飛び出さんばかりの勢いで合図を出さなくてはいけない。
「俺は乗るぞ!」という強い意思を見せなければ、バスはちょっとスピードを緩めるだけで、またそのまま走り出してしまう。
バスの出入り口から人が溢れんばかりだったとしても諦めてはいけない。
迷わずこう言おう! 「サヤ ナイク アタス!」 俺は屋根に乗る!である。
そう、そこまでして「乗る」という意思がなくてはバスには乗れない。
これを逃せば次はいつくるか分からないのだから・・・。
しかし実はこの屋根の上というのは僕にとっての特等席なのだ。
車内はすし詰めサウナ状態である。身動きもとれず、何時間も立ちっぱなしを強いられる事もある。
そんな車内に比べて、屋根の上は最高に気持ちがイイ!
緑は流れ、爽やかな風が駆け抜ける。寝転んでボルネオの大空を眺める事もできる。
周りの景色を良く見ていれば、サルやツパイなんかも見れるし、ドリアンの大木も見れる。
見晴らしがいいので、小さな川のチェックも出来るのだ。
「やあやあ、君も上かい」と屋根の上の連中の間には一時小さな連帯感もある。
ボルネオの空を独り占めだ〜!(屋根の上の特等席より)
ただし気をつけなくてはいけないこともある。
運ちゃんは屋根の上の人間の事など全く考えないで走る。木の枝が容赦なく襲ってくるのだ。
僕はジャングルの中にいたサルに気を取られていた。
「アワス!」の声で前を振り向いた途端、木の枝が顔面を直撃した。
たとえ細い枝でも時速100kmで走っていれば命取りになる。
幸い僕は友人にもらったXラージの帽子と、右耳にしていた7つのピアスのうち5つをもぎ取られ、
耳が血だらけになっただけで済んだ。油断は禁物なのだ。
東京では町の中で喫煙すると法律違反となる場所が出来たらしい。
インドネシア人が聞いたら信じないだろう。インドネシアでは禁煙はありえない。
もちろんバスの中だって禁煙なんてありえない。文句を言う人も一人もいない。
僕もそれに対して何も言おうとは思わないが・・・
1つだけ言わせてもらえるならばドリアンキャンディを僕に勧めるのだけはやめていただきたい。
それと出来ればバスの中でこのキャンディを食べるのもやめて欲しい。気持ちが悪くなってくる。
僕はドリアンを食べないわけではないが、ドリアンとマンゴーがあれば間違いなくマンゴーを取る。
下痢がひどい時、下痢が止まるという理由で食べる事はある。これは何故だか理由は分からないが本当に止まるような気もする。
蛇足だがドリアンは絶対にお酒と一緒に食べてはいけない。内蔵の中で急激に醗酵して命に関わる事もあるそうだ。
バスが穴にはまり、楽しそうな僕の友人
話がそれたが、もしバスの旅でエキサイトしたいなら迷わず雨期をお勧めする。
奥地や田舎へ向かう道は雨期には大変な事になる。
どこかのラリーに出場しているかのように車体は壮絶にスライドし、スタックし、穴へはまり、横転する。楽しい事この上ない!
たまに天井の鉄棒に頭をぶつけて流血する人も現れたりする。
泥道にはまった車が行く手をさえぎる(屋根の上の特等席より)
と、思ったら自分のバスがはまった!
はまったバスを助けようとした他の車も泥沼にはまり、にっちもさっちも行かなくなる事もある。
こんな時は乗客だろうがなんだろうが、みんなで力を合わせる。
バイランティの入った発泡箱は吹っ飛んで壊れてしまったが、泥まみれになるのも楽しいもんで、
そんな時、雲の隙間から陽射しがこぼれて美しい虹がかかったりするのである。
バスの旅は実に様々なハプニングが起きる。
ロスメンが無いような場所では、バスの中で仲良くなった人の家に泊まらせてもらう事もある。
バスが交通事故の怪我人を乗せ、救急車の代わりになった事もあった。
レンタカーもいいが面白味には欠ける。僕はバスをお勧めしたい。
たくさんの優しい人に会い、たくさんの意地悪な人に会う。
ありがとうとお礼を言えばいいし、ふざけるなと怒ればいい。
ボルネオを感じる瞬間
僕は、魚を採っている時でも、ナシゴレンを食べている時でもなく、
このオンボロバスに揺られている時こそ、今、自分がボルネオにいるのだ、と一番実感する瞬間なのである。
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