はじめて中央カリマンタンヘV(Parosphromenus sp. "Parenggean"編)

ぼくらはカソンガンの村に後にし、メンタヤ水系にあるサンピットへ向かった。 僕らのねらいは間違いなくスファエリクティス.アクロストマである。あとこの属で残すはこの種だけである。
メンタヤ川に生息するとされているこのアクロストマ、日本へ上陸した事はない。しかしドイツでは既に繁殖させているというではないか。 やはりドイツ陣の情熱、知識、そしてアクアリスト達の魚への取り組み方の姿勢・・・敬服するしかない。 しかも地理的に関しては絶対的に不利な条件にあるというのに・・・。

しかし僕はメンタヤに行きさえすればアクロストマなど簡単に見つかるだろう、とタカをくくっていた。 しかしそれは甘い考えであったようだ。サンピットの町の周辺をバイクで走り探し回る。 国際免許?そんなもん要らないよ。相変わらずのお気楽さでノウノウと走り回る。
この辺りは標高の低い低湿地帯で、大方はその手の魚がいそうなブラックウォーターなのだが・・・ 見つからないー!むむむむ・・・・・・。
僕はカプアス川のチョコグラとバイランティの関係を考え、セラタネンシスが下流側、アクロストマが上流側、という仮説を立てた。しかしヨーロッパの情報ではセラタネンシス種も同じ場所に生息するという事なのだが・・・。

見渡す限りこのありさま。パレンゲアン周辺

次の日には適当に目星をつけたパレンゲアンという村に向け出発した。 タクシーに乗り未舗装の道路を進み、3時間半ほど、直線距離にして約60kmほど北に向かった地点である。
ここの村はメンタヤ川の支流、トゥアラン川沿いにある。 僕らはバイクに乗り村の周辺から丹念に細流を見てまわった。が、しかし・・・ 強烈なカリマンタンの日差しをもろに浴び、泥だらけになりながら悪戦苦闘することになった。
どこまでも続く草原・・・その中にぽつんぽつんと立ち枯れの木。 日差しを遮ってくれるような木は切り尽くされ一本も無い。・・・何てこったい、ひどすぎる! 地球の歩き方には「カリマンタンの最後の秘境」なんて聞こえのいい事が書いてあるが、そんなのは嘘っぱちだ。 情報が無いからそうやって適当にいい事書いちゃってるに違いない。
今回バンジャルマシンから、パランカラヤ、カソンガン、サンピット、パレンゲアンとずっと見てきたが、 この森林壊滅の状況はひどいものがある。もちろん三年前の大火災の影響もあるだろうが、それだけではないはずだ。 アクアリストにはこの現実を知ってもらいたい。

しかしそれでも村から程近い、ガボンバのような水草が繁茂したクリアウォーターの細流では、 なかなかかわいいナマズを採集する事が出来た。持って帰ろうと思ったのだが、餌に苦労し死なせてしまった。
さらにしばらく探すと、「セラタネンシスの沼」を発見。非常に小さな沼だが、大小のセラタネンシスがたくさん泳いでいる。 ここにはアカレンシスタイプのベタも生息していたが、いきなりどこからともなくおじいちゃんが登場し、 石鹸で体を洗いながらマンディし始めたので唖然・・・。こんな悪い環境の中でもセラタは力強く生き抜いているんだ・・・ と妙に感心してしまった。しかしおじいちゃん、何もこんな泥だらけの沼でマンディしなくても・・・。

さらに先に進もう。パレンゲアンから15kmほど走ったあたり、これは!と思えるような水が流れる川を見つけた。 ブラックウォーターに見えたが、すくってみるとクリアウォーターであった。
川岸から川の中を覗いてみると、なんと薄暗い水底にクリプトコリネが生えているじゃないか! うん、確信した!ここには絶対何かいる。自分に暗示をかけながら網を入れてみる。 川自体は多少流れがあり、水流も豊富だ。岸際で流れの緩くなった所のクリプトコリネの下をすくってみる。
おーっ!ホントに入った!クリプトコリネの下から見事リコリスを探し当てた。 暗示・・・これが意外と効果あるもんなのだ。笑。 しかしこれは何だろう?背ビレと尻ビレは青いエッジが強く出ている。 エッジの内側と尾ビレはうすいエンジ色のようだ。とりあえず写真、写真・・・。

おおっ!このリコリスは!?ちょっとこの写真じゃ分かりにくいか?

しかし生活場所と思われるそのクリプトコリネもポイント的にしか残されておらず、このリコリスは非常に個体数が少なかった。 またリコリスのパーブルスも同じポイントで採る事が出来た。ということは・・・ もしかするとこれはアクアライフ95年6月号、ホルストリンケのリコリスグーラミィの世界に出ていた、 ”Palangan”産に近い種か同じ種かもしれん。 というのもここParenggeanからPalanganまでは距離にして約25kmほどしかなく、 水系も同じである。ちなみにパーブルスの原記載地はこのPalanganなのだ。
パーブルスはカハジャン川、カティンガン川、メンタヤ川と三河川に渡り広く生息している事になるので、 河川別に採集地をはっきりさせておく必要があるだろうな。

しかしこの川も辺りを見回せば危機的状況であることは明らかだ。 流れの緩いところなど本当なら落ち葉が堆積するのが普通であるが、周囲に木はまったく無いのだから、 ベタやリコリスの隠れ家になるような落ち葉はあるはずもない。そのかわりに泥が溜まっている。 これはつまり木を切り尽くし、むき出しになった表土を激しい雨が削り、 それが河川に流入して流れの緩いところに溜まってしまう。森の保水力もほとんどと言っていいほど無いだろう。
この状況は魚の棲み家だけでなく、魚の餌になるエビや水性昆虫の棲み家も奪ってしまう事になり、当然、生物の個体数や多様さも失われてしまう。 生態系が破壊され単純化してしまうのだ。
熱帯の表土というのは、実は思いのほか薄く、一度表土が流されてしまっては、 そこに元のような森を作ることはほとんど不可能に近いと言われている。

生息地の川、けっこう流れがある

この川のリコリスたちも、もはや虫の息?である。いまだここに生き残っていたのが不思議なくらいだが、しかしいずれここのリコリスももう少しすれば消滅する運命にあるのだろう。
僕たちアクアリストには何が出来るだろうか・・・。
もし皆さんが、ベタやリコリスを手に入れる機会があれば是非一度思い出して欲しい。 「珍しい魚が欲しい」と思うのは魚好きなら当然のことである。僕とて同じだ。 しかしその「珍しい」という言葉の裏には何があるかという事を・・・。

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