現地へ行ってわかったこと

1996年、僕は突如としてボルネオに行くと言い出し周りをビックリさせた。 友人達の反応は色々だった。 「ボルネオってどこ?ボラボラ島じゃないの?」 「変な病気にかかるよ!」 「ジャングル?面白そうだねえ」
僕が思い描いていたジャングルのイメージというのは・・・ ツルの巻き付いた大木がそびえ立ち、枝葉が空を覆い尽くす薄暗い世界。 猿やら蛇やら昆虫やら様々な動物が徘徊し、繰り広げる混沌としたサバイバルの世界・・・ 動物、植物また陸上、水中を越えて複雑に絡み合う生態系。 そして実際にボルネオにはそんな奥の深い世界が存在していたのだった。
1996年以来これまでに何度もボルネオへ行きラビリンスフィッシュを中心に採集をしてきた。 現地で魚を採集してみたい!まだ見た事の無い魚を見てみたい!
まあ僕にご立派な目的などあるはずも無く、ただ単に自分の欲求だけで始めたことなのだが・・・ しかしやはり現地で採集するという事は、飼育の際に参考にできる環境や水質など、 現地へ行かなければ分からなかった様々な情報が得られる反面、様々な疑問も浮上してくることになってしまった。

分かってきた事、これはもう山ほどあるのだが・・・ しかしアナバンテッドに関しては、何といってもこれが一番驚いた。 それは、種類によってものすごくシビアに生息場所を選択しているということだった。
ほとんどの人はショップや通販でアナバンを入手する事になると思うのだが、 手にしたその魚がまさかこれほどまでにこだわり?をもって生息場所を選択しているとはよもや思わないだろう。 なぜならショップがくれる飼育のアドバイスといえば「弱酸性で」か、種によっては「もっと酸性に」くらいだからだ。

アナバンが生息場所を決定するファクターとは、とにもかくにも環境である。 特にベタに関してこの傾向が顕著なのでベタの話で進めたいと思う。
ベタの生息環境は大別すると低湿地帯、細流、渓流、湖沼地帯、この四つに分けられると思う。 生息環境の嗜好はそこからそれぞれにさらに細分化されている。
水深、水流、水温、光線、水草の有無、川底の様子、湧き水の付近かどうかなど・・・。 これらの環境的なファクターが複雑に絡み合って生息場所を選択していると思われるが、 驚くことにその生息場所を外れると、そのベタはほとんどといっていいほど生息しなくなってしまう。
例えばフォーシィは「湿地林の中を流れる細流の脇の落ち葉の積もった浅い水のたまり」に多数生息している。 じゃあこの水たまりではなく、細流の方では採れないのかというと、ものの見事に採集できなくなる。
spサンガウの生息地は「起伏のある山林の中を流れる細流の最上流部」と限定されている。 しかも以前にも書いたように、ここより上流部が生息場所と限定できるほどに生息する、しないがクッキリと分かれているのだ。
spスカダナはあの雨続きの増水の中でも「水深5cmにも満たない湿地林の水溜りに」まとまって生息していた。
ディミディアータは「本流に流れ出る、比較的水量のある細流の岸際の落ち葉の下」というように、 種によって好む環境は異なるが、明らかに好んでその場所を選んでいると判断出来るほどそのポイントでの魚の個体密度は高くなっている。

ベタの生息地

sp.”マンドール”sp.”サンガウ”
sp.”スカダナ”ディミディアータアナバトイデス

多くのアクアリストは水槽内で生息地の環境を再現しようとした場合、どうするだろうか? まず一番に水質に気を使ったと思う。もちろん水質は重要な要素ではあるのだが、 ベタなどのアナバンは水質を選んで生息場所を決めているのではなく、環境を選んで生息場所を決定しているのである。 水質は環境を選んだ結果ついてくるものであって、四つに大別した地理的要素によって水質はほぼ決まってきている。
ある種がなぜその環境を選択しているのかという理由は難しい問題になってくるが・・・、 餌、繁殖、防衛などの効率の面と他魚種との生息域の棲み分けから決まってきたのではないだろうか? アナバンの中でもベタ属の種類数が多いというのは、様々な環境に入り込みその環境に特化してきたからだと思う。 特に赤道直下の西カリマンタン、カプアス水系はそれが顕著に表れ、ベタ属の種類数が最も多い水系になっている。
またある種のベタ(ウニマクやspサンガウなど)については遡上性という本能が結果として生息場所を決定しているとも考えられる。 ただ生息しているその環境が体型や生態にまで影響を及ぼしているのは間違いないだろう。

リコリスについては種類数自体は少なくないが、生息環境の嗜好性はそれほど細分化されていない。 好む環境は大体どの種も同じようなものだ。一水系あたり1〜2種と多くない事からもそれは伺える。
リコリスの生息環境は大体ニ分できると思う。低湿地帯と内陸の細流だ。 どちらの場合も比較的水量が豊富で、ある程度水深のある場所に好んで生息している。 特に岸際から草が水中に垂れてオーバーハングしている場所や、クリプトコリネなどの葉っぱの下などに好んで生息している。
僕が意外に感じたことは、リコリスの生息する川は結構流れがあるということだった。 これは出射氏の意見も同じであった。氏は腰まで水につかりその水流にバランスを崩しそうになりながら採集したという。 アンジュンガンエンシスやオルナティカウダの生息する川もそんな感じだ。
中央カリマンタンでパーブルスを採集した際には、川の流れが速く深いため、泳いで上流に進んだ。 もちろんその強い流芯に生息しているわけではなく、岸よりで水草などによって流れが緩やかになった場所に居ついている。 しかしそれでも流芯の強い流れに水は引っ張られるし、障害物によって水中の流れには「巻き」も生じるだろう。
飼育の際の参考にするとすれば、ある程度流れを作ってやり、クリプトや障害物を置き流れの緩やかな場所を作ってやるのがいいと思う。 ただその場所で繁殖しているかどうかは未確認なので、今度は水中メガネでも持ってって見てやろうと思っている。

リコリスの生息地

アンジュンガンエンシス
オルナティカウダ
sp.”パレンゲアン”
パーブルス
sp.”ナンガタヤップ”

アナバンはベアタンクで飼育というのが現在の主流になっている。 確かに繁殖を前提とする場合その方が掃除や水質、生体の管理が楽というメリットがある。 しかし本当の意味での生態を観察するなら、水槽内に現地の環境を再現してみるというのも面白い。 もちろん流木や落ち葉を入れたりするのは代表的だが、水深というのも一つのポイントなのではと最近は考えているのだが・・・、 様々な疑問に関してはまた次の機会に。

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