はじめて中央カリマンタンヘU

タンキリンを後にした僕らは、タクシーでカソンガンへ向かった。 このあたりから気になっていたのだが、中央カリマンタンというのはバスがあまり走っていないことに気がついた。 タクシーなのである。タクシーといっても、乗合タクシーである。
しかもタクシーと書かれている訳でもなく、ただの普通の4駆の自動車なもんだから非常に分かりずらい。 西でバスに乗りなれている僕にとって、これはしっくり来ない。しかも高い!走ってくる自動車に手を挙げても、 ただの自家用車である事も多い。だから、こっちに向かって来るのはタクシーかな?普通の自動車かな? なんてマゴマゴしてるうちに、通り過ぎていってしまうのだ。
教訓:中央では通る車は全てタクシーだと思え、である。 なぜバスがないんだろう・・・?それほど移動する人が少ないということだろうか。

カソンガンはタンキリンの村から約50km北西にある町だ。タクシーならたかだか1時間の距離だ。 タンキリンから乗り込んだタクシーにはすでに客が5、6人乗っていた。 そのうちの一人、体格のいい貫禄のあるおばさんが、僕らに英語で話しかけてきた。 この人はカソンガンの中学校で数学の先生をしてるという。どうりで・・・カリマンタンでは英語を話せる人はあまりいないのだ。
僕らは、自分たちがボルネオの魚を採集しに来た事を話すと彼女は、「どうせロスメンに泊まるのならうちに泊まって!部屋が空いてるから。」
僕は迷った。タンキリンでも人の家に泊まっていたのである。やはり人の家というのは遠慮もあるし、少々使いずらい。しかも採集から帰ってくる時は泥だらけである。それにこの町にはロスメンがあるわけだし・・・。
「じゃあ、とりあえずお茶だけでも飲みにきたら・・・」

家に着いてみるとビックリ!金持ちである。とてつもなく広い居間には大きなTV、部屋が4つ、 ダイニングには冷蔵庫、調理場、洗濯場まであり、なんと洗濯機があるではないか!
なにが洗濯機ごときとバカにするなかれ、これはすごいことである。 僕だって洗濯は川に浮かべた丸太の上で、ブラシを使ってゴシゴシ洗うのである。そのめんどくさい事といったらない。
今日本で洗濯物をブラシを使って洗っている人なんているだろうか。いやそんなものを使う理由が見当たらない。 みんな普段何気なく使っている洗濯機だが、日本人はきっと忘れているに違いない! 洗濯機は実はものすごく偉大なマシーンだという事を・・・。
今じゃ自動洗濯機は当たり前、全自動だったらその間は何かが出来るだろう・・・。 そして日本はまた一歩、便利で忙しい国になったのである。ブラシだったらそうはいかない。
結局家族総出の暖かいおもてなしを受け、是非泊まっていくといい、 という釣り好きのお父さんのお言葉に甘えここに何日かお世話になる事にした。

この辺りに生えているクリプトコリネ、ゾナータか?

さて次の日バイクを借りて早速お出かけである。今度はタンキリンへ戻る方向へバイクを走らせた。 しかしこの辺り一帯本当に森が無い。というか樹自体が無いのである。思った以上に環境破壊は深刻であった。
適当に横道にそれて湿地帯に網を入れてみると大抵、セラタネンシスとベタ・エディサエが入る。 ブラックウォーターであるかどうかはあまり関係ないようである。 逆に言うとこれらの種は比較的生命力が強く、劣悪な環境でも生きる事ができ、 (どこにでもいるアナバスやグーラミィのレベルではないが・・・) リコリスやフォーシィタイプのベタが生息地を狭められている、といってもいいかもしれない。

さてカソンガンから約4kmを過ぎた辺り、道沿いを流れるブラックウォーターの小川にクリプトコリネが繁茂しているのを発見した。 実に見事に繁茂していて、見ればP・ロンボオケラートゥスやラスボラ・タエニアータに似たラスボラが群れを成して泳いでいた。
何回も採集旅行を重ねていると、だんだんとベタなどが棲んでいそうな川は分かってくるものである。 それは水に入った感じ、流れの底の様子、川の周囲の感じ、直感、など様々であるが、ここはもうバッチリである。 間違いないのだ。クリプトには悪いが踏んづけて下に隠れてるだろう魚を網に追い込む。
・・・・・・入った!リコリスだ!・・・パーブルスである。黒いヒレに赤と白のスポット。
う〜ん・・・シブイ!憧れのリコリスをとうとう現地で見る事が出来たのだ。 網に入ったこのパーブルスを見ると、やはりオルナティカウダの感じにそっくりである。 しかし生息数は非常に少ない。時期が悪いのだろうか・・・。

パーブルス!ヒレの赤いスポットがわかるだろうか

その後上流側に採集しながら進むと、1匹のフォーシィタイプのベタが採れた。 これは!と思いさらに上流に進むと流れは道沿いを外れ、ちょっとした暗いヤブの中へ入っていっている。 行くしかないでしょう。
僕らは流れの中を這いつくばるようにして進んだ。しばらくヤブを進むと多少開け、 小川の周りには水溜まりが点在していた。ここだ、間違いないね!これは”マンドール”と同じ環境である。 ここで探すべき所は小川ではなく、水溜まりの方である。それはマンドールの経験で分かっている。 水溜まりには結構高い密度でこのベタが生息していたが、どれも比較的小さく成魚サイズは見つからなかった。
何かと論議の絶えないこのテのベタだけに、外見だけではフォーシィと区別する事は難しいと感じられたのだが・・・。 色彩も他のタイプと比べて特別きれいだという事もない。
簡単だが一応水質を明記しておこう。PH4.5、水温26.5度、GH、KH共に0〜1のブラックウォーターである。
ここまで書いて気づかれた方もいるかもしれない。これはアクアウェーブNo.7で出射氏の通ったルートと同じではないのかと。 実はそうなのだ。後になって聞いた話だが、ここのポイントはその時、出射氏がフォーシィタイプのベタを採ったポイントと 全く同じ場所であったらしい。この場所はカソンガンから約5kmの地点にあり、おそらくカティンガン水系だと思われる。
出射氏もこのポイント以外、この近辺の他の場所ではフォーシィタイプのベタは見つからなかったらしい。 そして僕らもここ以外ではこのベタを見つける事は出来なかったのである。

中央カリマンタン カソンガンエリアについての補足情報:出射 隆成 氏より
ホームページの中央カリマンタン州、記述について補足しておきます。
現在タンキリン〜カソンガン間は、99年より農地開発事業により、幹線道路より東側の整地が行われ、 ジャワ島からの移住者(トランスイミグレーション)の受け入れを、行っています。
農地開発は主に水はけの良い起伏の高い場所に造成される為、フォーシイ種の生息密度が高い細流の水源部と重複する場合が多く、 現在整地済みの場所にも98年調査の際、生息地を確認しています。 開発は人間生活がある限り避けては通れないものでしょう。

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